ここに、ひとつの物語がある。
これは、人間が知っているものの中で一番すばらしいもの、友情の物語。
ロボットプリンスがフレンドリーないいやつだということは皆のよく知るところだけれど、
彼には友達がいるってことは知ってた?
そう、いるんだよ!
ロボットプリンスは元々音楽が好きだったんだけれど、あるとき町で音楽好きな人たちに出会って意気投合、友情が芽生えた。そしてある日、とうとうバンドを組むことにしたんだ。それが今も活動を続けるバンド、フレンドフォース!
バンドの結成以来、彼らは町の色々なステージでパフォーマンスをして、自分たちの音楽を人々とシェアしている。そしていつもたくさんの観客が、その演奏に聞き惚れている。
友情を少しでも知っている人なら誰でも、彼らのファンキーな音楽で元気になるし、
その気持ちは観客の間でどんどん広がっていく。
そうやって、皆がこの友達同士で組まれたバンドを好きになった。
ただ一人を除いては。
ただ一人、本当の友情を知らない人を。
ミスター・ボッチはとても厳格な家で育った。
エチケットと正しさが何よりも大切にされる彼の家庭で、親愛の感情を表現することはみっともないこととされ、
巨大な高級住宅に住みながら、ミスター・ボッチは親からの愛情を知らないまま育った。
ミスター・ボッチはいつも一人ぼっちだったというわけではなくて、むしろ町にはたくさんの知り合いがいた。
その人たちに対して、彼はいつも礼儀正しく、しかしとても表面的な態度で接した。
町の人たちと一緒にふざけたり笑い合ったりすることは、彼の頭によぎることさえなかった。
親愛の情を知らない彼の心は、友情も知ることはなかったのだ。
そんなわけで彼には友達が一人もいなかった。
しかし、彼は最初から愛情や友情を知らないので、自分が何を持っていないのか、全く気づかなかった。だから彼は友達がいないなりに、そこそこ幸せに暮らしていた。
フレンドフォースが彼の町のあらゆる所で喜びや幸せのメッセージを歌い始めるまでは。
フレンドフォースのパフォーマンスを通じて、本当の友情とは何かを見たり聞いたり
したミスター・ボッチは、生まれて初めて、自分がどれほど寂しい人間かを知った。
そしてそれは両親から受けたどんな叱責や罰よりも、深く彼の心を傷つけた。
その痛みと悲しみはミスター・ボッチの精神を狂わせていった。
そして、そのやり場のない負の感情は、
自分にそんな苦しみを与えるフレンドフォースに対する激しい憎しみとなって、
彼の心の奥深くで大きくなっていった。
そしてついに、彼はフレンドフォースへの復讐を誓うまでになってしまった。
ミスター・ボッチは、フレンドフォースがあんなにもフレンドリーなバイブスを広めることができるのは、彼らの素敵な歌声と楽器の演奏のおかげだということに気がついた。
言い忘れていたが、ミスター・ボッチは電子工学とロボット工学の専門知識を兼ね備えた魔術師でもある。
彼は考えた。「あの野蛮なやつらが歌ったり演奏したりするのをやめさせるには、
どんな呪文をかけてやったらいいだろうか…」
ロボットだ!
やつらをロボットにしてしまえばいい。
ロボットというものはおそらく歌や演奏はできないだろう。
そうして彼の凶悪なプランは動き出した。
よく晴れた火曜日の午後。
フレンドフォースは暖かい時期にはよくそうするように、公園のあずま屋で美しいメロディーを奏でていた。
彼らが太陽の光を浴びながら、キャッチーな曲に合わせて歌を口ずさんでいる周りには、
大勢の人たちが芝生にブランケットを敷いて集まっていた。
その一番後ろの方、陽が当たらず陰になっている所に、こういう場所には似つかわしくない男が一人、きっちりとスーツを着込み、しかめっ面で立っていた。ミスター・ボッチ。
彼は憎しみに燃える目でフレンドフォースを睨みつけながら、ひっそりと不気味な呪文を呟いた。その瞬間、突如現れた真っ黒い雲がまたたく間にあずま屋を飲み込み、そしてゆっくりと消えていった。黒い雲が消え去ると同時に、観客たちは一斉に息を飲んだ。
ついさっきまで楽しげなパフォーマンスを見せていたフレンドフォースのメンバーの代わりに、ひどく困惑した様子のロボットたちが、そこに立っていた。
彼らは演奏を続けようとしたが、ロボットの硬い指ではひどい音しか出なかった。
歌おうともしてみたが、意味のない電子音が出るだけだった。
彼らはダンスもしてみたが、これは実際クールだった。
しかし音楽なしでは、どうやって多くの人々に喜びを広げていけるだろうか。
観客たちは、これまで慣れ親しんできた彼らの音楽を、自分たちの日々を明るくしてくれるすばらしい音楽を、もう聞くことができないのかと嘆き悲しんだ。
その一方、ミスター・ボッチはその空ろな心で歪んだ喜びを感じていた。
ついに彼はフレンドフォースが、自分の顔に「友情」を押し付けてくるのを阻止することに成功したのだ。
しかし、フレンドフォースのメンバー間の友情は、
ロボットにされたぐらいで壊れるような、ひ弱な絆ではなかった。
すばらしい音楽を作るためには、良い声と良い楽器さえあればいいというわけではない。
そこに友情があれば、良い音楽が生まれるのだ。
今回ミスター・ボッチの想定外だったことは、ロボットの電子音というのは、
それはもうめちゃくちゃ効果的にグルーヴィーな音楽を作り出せるものだということだった。
そしてそのことが、最終的に彼の計画を破綻させることになる。
突然ロボットになってしまったフレンドフォースのメンバーは、初めこそ何が起きたのか分からず混乱していたが、少し落ち着いて来ると、自分たちから出る音がカッコいい音楽になるということに気づいた。そして、その音でメロディーを演奏し始めた。もちろんメンバーの息はぴったり。新しいフレンドフォースの誕生だ!そして彼らの新しい音楽は、それまでとは違うものになった。一種のチップチューンというやつだ。
ミスター・ボッチの、町の人を一人残らず自分と同じぐらい惨めにしてやるという目論みは、
このとき失敗に終わった。彼は友情の力を見くびっていたのだ。
ミスター・ボッチは未だかつてなく強烈に、フレンドフォースが見えない所へ行ってしまいたいと願った。直後に、そのどうしようもない寂しさのあまり、彼はとうとう死んでしまった。
その後もフレンドフォースはロボットミュージシャンとして最高の音楽を作り続けた。
そしてこれからもその活動を続けるだろう。
このCDに入っている曲はフレンドフォースのメンバーによって作られた楽曲である。
だからこれを聞く君も、彼らと一緒に感じることができるよ。
何をかはもう分かってると思うけど、友情の力をね!